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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)3967号 判決

原告 ジャン・ジャンセン

右訴訟代理人弁護士 福田彊

同 土谷伸一郎

同 森尻光昭

同 青木邦夫

右福田彊訴訟復代理人弁護士 中川康生

被告 亡友田五三訴訟承継人 友田モト子

同 友田浩夫

右法定代理人親権者母 友田モト子

同 藤森親子

右三名訴訟代理人弁護士 磯崎良誉

同 鎌田俊正

同 磯崎千寿

主文

被告らは原告が別紙図面表示・・・・の各点を順次連接して囲まれる部分の土地を通行することを妨害してはならない。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその二を被告らの、その余を原告の各負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

原告は、「一被告らは原告が別紙図面表示・・・・の各点を順次連接して囲まれる部分の土地を通行(自動車による通行を含む。)することを妨害してはならない。二被告らは別紙図面表示・・・・・の各点を順次連接して囲まれる部分の土地上に高さ五メートル以上の建物を建築してはならない。三訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求原因)

一  昭和四〇年九月原告は妻訴外伊浜広子の所有とするために訴外伊東丈夫より神奈川県三浦市初声町三戸字入道込二一七八番二(以下所在地を同じくするものはすべて地番のみを表示する。)、宅地八四・九八坪(二八〇・九二平方メートル)、二二三二番二山林二三坪(七六・〇三平方メートル)、二一七八番地所在家屋番号二一七八番、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟床面積一八・七七坪(六二・〇四平方メートル)を、その後、さらに同訴外人より二一七九番四山林一八八平方メートルを買受けいずれも伊浜広子所有名義に所有権移転登記手続を経由し、原告は右二一七八番二の土地上に家屋番号二一七八番二、木造亜鉛メッキ鋼板葺三階建居宅、床面積一、二階四七・七九平方メートル、三階一七・〇一平方メートルを建築所有し居住している。(以下、二一七八番二、二二三二番二、二一七九番四の土地を総称して伊浜所有地という。)

二  別紙図面表示・・・・の各点を順次連接して囲まれる部分(以下本件土地部分という。)は二一七九番三山林二三八平方メートルと海に挾まれた海浜地で国有地である。即ち、

昭和三五年一一月二八日調製された横浜地方法務局三浦出張所の縮尺六百分の一の公図(甲第三四号証はその写)の示すとおり二一七九番三山林の南端は大潮のとき海水の達する限界線から最も狭い部分で約一二メートル、広い部分では二五メートルの距離をもっていることが明らかである(大正一二年の関東大地震時に三浦半島の海岸は隆起した。)から、現在海水の到達できる点より陸地へ向って一二メートルを距てていない本件土地部分は二一七九番三の山林に属しない海浜地としなければならない。なお昭和三五年頃別紙図面表示の線上にエボタ並木があり右並木の北にこれに沿い少なくとも幅三メートルの沼を隔てて、訴外水野某、同尾花某が払下げを受け耕作していた土地の畦畔があったのであって、このことは本件土地部分が国有地たる海浜地の一部であることを示すものである。

三  原告は、次の理由により国有地たる本件土地部分を通行しこれを妨げられない権利を有する。

(一)  原告は前記のとおり妻である伊浜広子所有の二一七八番二の土地上に建物を所有しこれに居住しているところ、右土地を含め訴外伊浜広子所有地は袋地であるから、原告は本件土地部分を通路として通行する権利を有する。即ち、

1 伊浜所有地はその北側を訴外伊東丈夫所有の二一七八番の一、二二三二番の一の各土地、東側を二一七九番の一の土地、西側を訴外石橋義三所有の二一七七番、二一七九番二の土地、南側を被告ら所有の二一七五番、二一七六番、二一七九番三の各土地および国有地たる海浜地に囲まれて公路に通じない袋地である。

2 そして、伊浜所有地附近に存在する公路としては別紙図面表示の両点を結ぶ線に始まり西方に通ずるものが唯一のものであるところ、伊浜所有地の北側は前記伊東丈夫所有地を経て急斜面をなす山であり、東側も右同様の山であって、通路を開くには不適当であり、西側の前記石橋義三所有地は平坦ではあるが別荘の敷地であって通行に適せず伊浜所有の南側に伸びる二一七九番四の土地より本件土地部分を経て右公路に至るのが通行に適し最も他に与える損害の少ない方法である。

なお右二一七九番四の土地の南端より東南方向に国有地たる海浜地および私有地である二一五三番の二を経て傾斜をなすハイキング道路に至ることができるが右二一五三番の二附近は北側を山林の絶壁、南側をブロック塀にはさまれその間人一人やっと通れる程度の幅員で、最も狭いところでは六五センチメートルしかなく、さらに右ハイキング道路は幅員約一・四メートルに過ぎず山林の急斜面を曲りくねって北上するものであって、しかも凸凹があり、ところによっては草でわからないところがあるのみならず土が粘土質のため晴れた日でもすべりやすく、雨の日にはすべって、歩くことが困難であるから、かかる通路をもって公路というに該らない。

3 次に原告の通行権の認められるべき通路の幅員は自動車による通行を可能ならしめる三メートルとするのが相当である。

現在においては自動車は一般大衆の日常生活に不可欠のものであるのみならず殊に伊浜所有地附近は三方を山に囲まれ他の一方は海に面しており、交通の便が悪いため、原告は東京丸の内の勤務先まで通勤するには前記居住家屋から毎日国鉄逗子駅までは自動車を利用せざるを得ず、また原告の妻伊浜の買物のためにも自動車を利用せざるを得ないのである。もし、原告らが自動車を利用できない場合その日常生活に及ぼす支障は重大である。したがって自動車による通行可能な通路の通行権が認められるべきである。

(二)  原告は本件土地部分につき慣習による通行権を有する。即ち、

前記二一七五番、二一七六番の土地附近一帯の土地は昭和三五年一一月部落民に払下げられるまでは旧横須賀海岸初声施設地区に属し部落民が右土地附近の一部を耕作しており、その頃すでに別紙図面線上にあるエボタの木に沿って北側に道があり、右耕作をしていた部落民が通行しており、その後現在に至るまで約二〇年間右部落民ら、原告の妻、その他別荘地住民らが平穏かつ公然に継続して通行し、これにより法律上保護せられるべき生活上必須の利益を享受しているのであって右通行は一般に正当な使用として承認せられていたものというべきであるから、右土地附近に耕作地を有していた部落民および右土地附近に居住する原告は慣習による通行権を取得したというべきである。

(三)  原告は本件土地部分につき一般使用権としての通行権を有する。即ち、

国有地たる海浜地等公共用物は他人の共同使用を妨げない限度で一般公衆の自由な使用に供せられ、特に一般公衆が許可その他何らの行為を要せず自由にこれを使用し得るときこれを一般使用と称し、この使用権は法律上もまた保護せらるべきものであるところ本件土地部分も公衆の自由な使用に供せられているのであるから原告は自己の生活上必須の行動として本件土地部分を通行に使用し得る一般使用権を有するものであり、右は法律上も保護せられるべきものである。

四  仮に本件土地部分が国有地の一部であると認められず被告ら所有の土地の一部であるとしても、原告は次の理由により本件土地部分を通行する権利を有する。即ち、

(一)  前記第三項(一)記載の理由により原告は本件土地部分につき囲繞地通行権を有する。

(二)  仮に右主張が認められないとしても、被告らの被訴訟承継人亡友田五三との契約により原告は本件土地部分を自動車で通行する権利を取得した。即ち、

原告が前記のとおり昭和四〇年九月訴外伊東丈夫より二筆の土地および建物を買受けたのは亡友田の斡旋によるものであり、亡友田は右伊東丈夫の代理人として原告と交渉に当っていたのであるが、その際原告は永住目的で土地を購入するのであり東京丸の内の勤務先への通勤には国鉄逗子駅まで自動車を利用する旨を述べ、当時右二筆の土地の前記公路に達する通路が開設されていなかったので、その保障を求めたところ、亡友田は隣地である訴外石橋義三所有の前記二一七七番および二一七九番二の両地を徒歩並びに自動車による通路として通行できる旨の確約を右石橋から得てこれを原告に通じ、かつ、将来右の通行が困難となる事態が生じた際海岸を経由すれば徒歩によってのみならず自動車によっても公路に達することができる旨を確約していた。そこで、原告は右二筆の土地から南に伸びる同所二一七九番の四に道路を設置して海浜地区に出ることを予定して右二筆の土地のほかに昭和四一年一二月二三日に右二一七九番の四の土地を買受け翌年九月に道路を設置したところ、前記石橋は前記確約に反し一方的に柵を設置して原告の通行を阻んだので、その後は原告らは二一七九番の四より本件土地部分を経て前記公路に出ていたのである。

なお、右公路は前述のとおり別紙図面表示両点を結ぶ線に始まりその西方に通ずる未舗装道路部分(国有地)でさらに私有地である幅員約二・五メートル長さ二九七メートルのコンクリート舗装道路を経て二一六一番地西端附近において公道に達するのであるが亡友田は同人らが部落民より賃借権もしくは地役権の設定を受けていた右舗装道路部分につき原告に右権利を譲渡しかつ、右舗装道路の南端に同人らが設置していたチェーンゲイトの錠の鍵をも原告に交付したのである。

五  しかるに亡友田は原告が本件土地部分を通行する権利を有することを争い、原告が右土地部分を通行(自動車による通行を含む。)を妨害してきた。

六  次に亡友田は二一七五番、二一七六番、二一七九番三の土地上、前記原告所有建物の真南側に木造鉄板葺三階建の建物建築を計画し昭和四二年一二月二七日建築基準法および神奈川県風致地区規則に基く建築確認および許可を申請した。

そして右建物は高さ九・〇五メートル、東西の長さ一二・七メートルに及ぶものであって、これが建築されるときは原告所有建物は高さ九・七六メートル、東西の長さ九・三〇メートルで、両建物の間隔は七・一〇メートルあり原告建物の敷地は右三筆の土地より二・三〇メートル高いけれども原告所有建物はその南側の眺望が二階床より一・八九メートルに達する高さまでさえぎられ、かつまた日照、通風にも重大な影響を蒙ることとなる。

七  ところで亡友田は次に述べるとおり二一七五番、二一七六番、二一七九番三の土地上には原告建物の眺望、日照を妨げる建物は建築しない旨原告に約していたのであるから、前記建物の建築は右約旨に反するものである。即ち、

原告は、妻伊浜広子の健康がすぐれず、また原告がヨットを趣味とするので、ヨットにも便利で、紺碧の小網代湾を一望することができ、木々の緑が目に素晴しく、温暖で日照も豊富な、空気も澄み、風通しの良い土地に永住し、肉体的精神的健康を維持増強するに適した土地を求めるつもりであったため、昭和四〇年八月ころ土地購入の斡旋をしてくれていた亡友田にも右意図を話し、現在の伊浜所有地よりむしろその南側のその頃亡友田所有の土地を買いたい旨申し入れていたのである。したがって右伊浜所有地の斡旋を受けた際にも将来右亡友田所有地上に建物が建築されては原告が建築する住居からの眺望および住居に対する日照、通風が妨げられ、原告らの土地購入の目的が達せられなくなるおそれがあるので亡友田に対し原告は購入土地の南側いっぱいに永住用建物を建築する予定であること、亡友田が所有地に右建物の眺望、日照、通風を妨げる建物を建築するのなら原告は目的を達せられないことになるから他の土地を購入したい、旨を述べておいた。ところが亡友田は二一七五番、二一七六番の土地については東京地方裁判所で訴訟が行われており、勝訴することは間違いないが一〇年くらい要するので他人に売ることはないから他人が同地上に建物を建てることもない。また、遠い将来亡友田が建築するとしても原告が建築する建物の海への眺望、日照及び通風を害するような建物工作物を建築することは絶対にないといって、斡旋した土地建物を買うよう勧め、原告は右土地建物を買うに至ったのである。以上のように亡友田はその所有地に原告所有建物の眺望、日照、通風を妨げる建物等を建築しない旨を約したのである。

八  仮に右契約が認められないとしても亡友田がその所有地に前記の建物を建築することは次に述べるとおり不法行為となるからかかる建物の建築は差止められるべきである。即ち、

日照、通風、眺望の利益は健康な生活を享受するために不可欠なものであり法的保護を与えられるべきものであり、ことに伊浜所有地附近はいわゆる風致地区に指定されており建物建築についても全体の風致を維持することに役立つよう調和が要求されるのみならず、またいわゆる住宅地区でもあるから都市部商業地区より右利益を厚く保護すべきである。ところが、亡友田が建築を企図していた建物はその用途は貸別荘というのであるが他に十分な余地があるに拘らずことさら原告建物の真南に位置し、しかもその形状は下部にコンクリート柱を用い一階の床でさえ地上三メートルという不必要な高さ(一階部分をボート、自動車の格納のため使用するとしても三メートルの高さは必要でなく、亡友田所有地の建ぺい率は二割であるからボート、自動車の格納施設を建物の下に設置する必要もない。)その上に二階建の建物の高さが加わり、屋根も著しくつき出た合理性のない平屋根であってかかる建物の建築は原告の日照、通風、眺望の利益を奪うことを目的とするもので原告が、前記七項記載の経緯で得た日照、通風、眺望の利益と失う損失とを対比するとき、原告に対する不法行為を構成するものというべきである。

九  亡友田五三は昭和四五年一月一六日死亡し、被告らがその権利義務を承継した。

よって原告は被告らに対し原告が本件土地部分を通行(自動車による通行を含む。)することの妨害禁止と前記二一七五番、二一七六番、二一七九番の三の各土地上に高さ五メートル以上の建物の建築の禁止を求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因第一項について

原告および訴外伊浜広子が原告主張の土地、建物をそれぞれ所有している事実は認める。

二  同第二項について

原告主張事実は否認する。

本件土地部分は被告ら所有の二一七九番の三の土地の一部である。

三(一)  同第三項(一)について

1 伊浜所有地は袋地ではない。

伊浜所有地は二一七九番の四の土地の南東私有地であるが一般通行の用に供されている道路敷(同所二一五三番の二の北側の一部)を経て東に向う公路に通ずることができる。戦後同所二一七五番ないし二一七七番、二一七九番の二ないし四の土地は食糧増産のため農地として開墾され、耕作されていたのであるが、その頃から右耕作者(後自作農創設特別措置法に基き右土地の売渡を受けた。)らは右通路を通行してきたのである。

2 自動車通行可能な幅員の通路が必要であるとの主張は争う。

元来伊浜所有地は道路に二メートル以上接しておらず、別荘地であること等を考慮されたが故に建築基準法第四三条但書により原告建物は建築確認を得ることができたものであるから自動車を玄関に横着けできるような幅員の通路の必要を主張できない筈のものである。伊浜所有地附近に別荘を所有するもので自宅の玄関まで自動車を乗り入れている者はなく、すべて自動車を適当な位置に駐車し、徒歩で自宅まで往来しているのである。

(二)  同項(二)について

仮に本件土地部分が国有地たる海浜地の一部であるとしても、国は原告を含む一般人に事実上通行を認めているにすぎず、原告は右土地部分につき通行する反射的利益を有するにとどまり法律上の権利を有するものでないから妨害排除を請求できない。

四(一)  同第四項(一)について

原告が囲繞地通行権を有しないこと前項(一)記載のとおりである。

(二)  同項(二)について

原告主張の契約成立の事実は否認する。

亡友田五三は伊浜に対し伊東の経営する会社の電話番号を教えたにとどまり、伊東を代理して原告や伊浜と土地売買の交渉にあたったことはない。伊東と原告間の土地売買交渉、土地測量等に亡友田が関与したといえるとしても伊東の相談相手であったにすぎず、自らの所有地を自動車で通行することを容認し、法律上の義務を負担したことはない。

五  同第五項について

原告主張事実は認める。

六  同第六項について

亡友田の建築しようとした建物により原告建物からの眺望、および原告建物に対する日照、通風に影響を蒙るとの主張は争うがその余の原告主張事実はすべて認める。

七  同第七項について

原告主張の契約成立の事実は否認する。

亡友田五三は昭和四〇年八月伊浜広子に伊東が別荘を売る意思を有していることを告げ、伊東の経営する会社の電話番号を教えただけで伊東の代理人として売買の交渉にあたったことはないし、伊東の別荘の鍵を預っていたがその管理を任されていたこともない。

亡友田は二一七五番、二一七六番の各農地を買受け昭和四〇年九月三日売主に対し農地法第五条による許可申請手続を求める訴を横浜地方裁判所横須賀支部に提起していたけれども、右訴は早期に終了する見込みであったため、判決を得、右許可を得れば直ちに建物を建築する計画でいたのである。そして、右売主らは右訴訟において亡友田の主張事実を認めたので、直ちに勝訴判決を得、亡友田は右土地につき所有権移転登記を経た。以上の次第であるから亡友田が原告に対し、右二一七五番、二一七六番の土地上に原告主張のような建物を建築しない旨を約するごときことはあり得ない。

八  同第八項について

原告の主張は争う。

亡友田が建築許可の申請をしていた建物は原告建物の南側に位置することとなっておること原告主張のとおりであり、一階部分はボート小屋を兼ねた物置でコンクリート柱となっているがそれは構造上の必要からであり、屋根の形状も冬期の強い西風を考慮したものである。

また風致地区では建物建築に法的規制を受けるけれども地区全体の風致の保持を目的として規制がなされるのであって建物を建築する場合後方の建物の眺望を害してならないという利益保護が規制の趣旨ではない。

なお亡友田は原告主張の建物を建築する計画をとりやめることとし昭和四三年一一月一二日神奈川県知事にその旨届出で同月一三日これを受理されており、右以後亡友田は二一七五番、二一七六番、二一七九番三の土地上に建物建築する計画も有していないし、亡友田五三は昭和四五年一月一六日死亡し被告三名がその権利義務を承継したが、被告らも右地上に原告主張のような建物を建築する予定を有していないから、原告の建築禁止を求める請求は理由がない。

九  同第九項について

被告らが原告主張のとおり亡友田五三の権利義務を承継したことは認める。

(証拠)≪省略≫

理由

第一通行妨害禁止を求める訴について

一  原告の妻訴外伊浜広子が神奈川県三浦市初声町三戸字入道込二一七八番二(以下所在地を同じくするものはすべて地番のみを表示する)宅地八四・九八坪(二八〇・九二平方メートル)、二二三二番二、山林二三坪(七六・〇三平方メートル)、二一七九番四山林一八八平方メートル(以上の三筆の土地を伊浜所有地と総称する。)、二一七八番二所在、家屋番号二一七八番、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟、床面積六二・〇四平方メートル(一八・七七坪)を、所有し、原告が二一七八番二の土地上に家屋番号二一七八番二、木造亜鉛メッキ鋼板葺三階建居宅、床面積一、二階四七・七九平方メートル、三階一七・〇一平方メートルを建築し所有していることは当事者間に争いない。

二  原告は別紙図面表示、、、、の各点を順次連接して囲まれる部分(以下本件土地部分という。)は国有地たる海浜地の一部であると主張し、これを前提として本件土地部分につき原告は囲繞地通行権もしくは慣習又は一般使用権に基き通行する権利を有するという。

よって、右前提事実につき判断する。

検証の結果によると別紙図面表示、線を南に延長し点より一二・九〇メートルの地点(別紙図面表示点)には境界石が埋設されているが右点は干潮時には地上に先端が露出しているが、同点より北方四米附近までは満潮時には海水に浸されるものであることが認められ、一方成立に争いのない甲第三四号証(公図写)が海岸線とその北方に位置する二一七九番の三との距離を正確に表示しているものとすれば海岸線と二一七九番三との間は原告主張のとおり狭いところでも一二米隔てていなければならず、したがって、本件土地部分は国有地たる海浜地に属するという推論が可能である。

しかしながら、公図は地番隣接の状況を示したものであって各地番の土地の、面積形状を必ずしも正確に表示するものではなく、右公図が一般の場合と異なり正確なものであると認むべき資料はない。≪証拠省略≫によると初声町三戸字宮の前及び字入道込の公図は昭和三五年に改調されていることが認められ、前掲甲第三四号証は昭和四三年に公図を写したものであるけれども昭和三五年に改調されたというだけでその正確性が担保されていることにはならない。したがって、右公図のみに依拠して本件土地部分が国有地たる海浜地に属すると断ずるのは早計である。

そこで、本件土地部分附近の実地についてみるに検証の結果によると、別紙図面表示線はほぼ膝位の高さの落差をもった石垣の南縁でその北側は通路状をなしその線側には、ウツギ(エボタともいう)が三本並んで生立していることが認められ、≪証拠省略≫によると、二一七九番の三は昭和三七年一二月一五日二一七九番から分筆せられたもので、右分筆前の二一七九番は自作農創設特別措置法による売渡により関龍蔵、沢村蔵共有名義とされたものであるが当時雑木林であったこと、右二一七九番の三の北方に位置する二一七五番は水野勇吉が、同じく二一七六番は尾花今一がそれぞれ戦時中の食糧増産のため開拓し引続き水田として耕作していたものであるがその頃右耕地の南方にあって土手状をなしていたところの海岸寄りに前記ウツギを植栽したこと右土手状の部分は部落民が満潮時等に通行のため利用していたので自然と徒歩で歩くことができる程度の幅員で道路状をなしていたものであることがそれぞれ認められる。右認定の諸事実を綜合すると本件土地部分は二一七九番の三に属し国有地たる海浜地に属しないものと認むべきである。

よって、本件土地部分が国有地であることを前提とする原告の主張はすべて採用しない。

三  次に原告は本件土地部分が被告ら所有地の一部であっても、原告はこれにつき囲繞地通行権もしくは亡友田五三との約定による通行権を有すると主張するので検討する。

≪証拠省略≫を綜合すると、伊浜所有地はその北側を訴外伊東丈夫所有の二一七八番の一、二二三二番の一の各土地、東側を二一七九番の一の土地、西側を訴外石橋義三所有の二一七七番および二一七九番二の土地、南側を被告ら所有の二一七五番、二一七六番、二一七九番の三の各土地および国有地たる海浜地に囲まれておることが明らかであるから袋地というべきである。

尤も、伊浜所有の二一七九番の四の土地から海岸に沿って東南に進み、私有地である二一五三番の二の北側を経てさらに傾斜をなすハイキング道路を経て公道に通ずることができること前掲各証拠によって明らかであるが右の通路は検証の結果によれば右二一五三番の二の北側附近にあっては山林の絶壁とブロック塀にはさまれ人一人が通行できる程度で、狭いところは六五センチメートルの間隔があるのみであり、右ハイキング道路は急斜面をなしかつ、粘土質のためすべりやすい道であることが認められる(右認定に反する証拠はない。)のであって通行することが不可能ではないにしてもその幅員および路面の状態からみて日常の通行の用に供するには不適当なものというべきである。かかる不適当な道路あるの故をもって二一七九番の四が公路に通じているとはいえない。

そうだとすると伊浜所有地より公路に至る通路を求め得ることとなるところ、伊浜所有地附近においては二一七九番の二、三の土地の西南端付近より海岸に沿って西方に延びるコンクリートで(完全ではないが)舗装され一般通行の用に供されている道路があるのみで他には前記東方に至る通路を除いて一般の通行の用に供されているものの存在しないことが検証の結果と弁論の全趣旨により認められ(右認定に反する証拠はない。)右の西方に延びる道路は公路というに妨げないから、伊浜所有地については右公路に至る通路として利用さるべき土地について囲繞地通行権が認められるべきである。そして伊浜所有地、被告ら所有の二一七五番、二一七六番、二一七九番三、訴外石橋所有の二一七七番の各土地および海浜地の地形、高低差、利用状況を考慮すれば、別紙図面線を南縁とする部分に通路を求めるのが相当である。

そこで、さらに、右通路の幅員について検討する。

≪証拠省略≫によれば伊浜所有地近辺および同地より前記公路を西進して三岐点を経、さらに西進した地域には別荘が散在するが、右別荘を訪れる者は右三岐点附近又は、三岐点より北上する坂道の上方、もしくは前記ハイキング道を登りつめて至る農道に自動車をとめ、右駐車地点から各別荘までは歩いて行くのが普通であって自動車で別荘の入口まで乗り入れるものは訴外石橋義三および承諾を得て同訴外人所有の二一七七番の土地に自動車を乗り入れていた訴外伊東丈夫以外にはいなかったことおよび伊浜所有地の東南方の別荘所有者訴外小杉某は、自動車を前記一部コンクリートで舗装された道路の東端附近にとめ、別紙図面線附近を歩いて別荘に至っていたことが認められる(右認定に反する証拠はない。)から、伊浜において被告ら所有の二一七五番、二一七六番、二一七九番三の土地につき公路に至る通路として通行を求めることができる幅員は、右認定の近隣の別荘所有者の利用状態、および所有地を通路とせられることによって蒙る被告らの不利益を考慮すれば、徒歩で通行することのできる一メートルをもって相当とすべきである。原告は自動車による通行の可能な幅員の通路が認められるべきであると主張するが右認定の附近の別荘所有者らの土地利用状況、被告らの不利益をも考慮すれば、自動車による通行までも認めるのは相当でないから原告の主張は採用しない。

ところで原告は右袋地の所有者ではないが、所有者伊浜の夫であって、伊浜所有地上に建物を所有するものであるから袋地所有者に準じその囲繞地を通行する権利を有すると解すべきであって、原告が右通路を通行することを亡友田が妨害していたことは当事者間に争いなく亡友田の承継人において右通行を許容すると認めるべき事情もうかがうことはできないから、原告は亡友田の承継人たる被告らに対し右通行権に基き妨害排除として通行妨害の禁止を求めることができるといわなければならない。

四  しかるところ、原告は右認定の範囲を超えて本件土地部分につき亡友田が原告の自動車による通行を許容する旨約したと主張するので、さらに右主張について次に判断する。

≪証拠省略≫によると、訴外一瀬斉男は原告から依頼されて訴外伊東丈夫と伊浜広子間の前記二一七八番二、二二三二番二の土地および木造建物の売買契約書作成に関与し、右伊東のために右契約書作成に関与した亡友田五三と折衝し契約内容の確認をしたのであるが、その際右友田は一瀬に対し将来原告および伊浜広子が二一七九番の四の土地から前記公路に出るために自由に通れるところは通ってもよいといったことが認められるけれども、右認定の事実からしては亡友田がその所有地内に通路を提供し、右通路につき通行権を認める趣旨、換言すれば原告の通行を妨げる一切の行為をしないという不作為義務を負担する趣旨での法的拘束力のある合意が亡友田と原告間に成立したものということはできず、他にかかる合意の成立を認め得べき証拠はない。≪証拠判断省略≫

第二建物建築禁止を求める訴について

一  亡友田五三が原告所有の前記建物の南に原告主張の規模構造を有する建物の建築を計画し、昭和四二年一二月二七日建築基準法および神奈川県風致規則に基く建築の確認および許可を申請したことは当事者間に争いがない。

しかし、≪証拠省略≫によれば、亡友田は右申請に基く建築確認通知を得た後右計画をとりやめ昭和四三年一一月五日神奈川県に対し、その旨の届を提出したこと、そして、亡友田は昭和四五年一月一六日死亡したのであるが、その権利義務を承継した相続人たる被告らにおいてもその所有土地上に原告の建物の日照、通風、眺望を害することとなるような建物を建築する考えはもっていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  しからば、現在において原告建物の日照、通風、眺望が害せられるおそれはないものというべきであるから、これあることを前提とする建物建築禁止を求める請求はその余の点の判断を要せず理由がない。

第三結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し別紙図面表示、、、、の各点を順次連接して囲まれる部分(線と線との間隙一メートル)につき原告の通行の妨害を禁止することを求める限度においては理由があり正当として認容すべきも、その余は理由がなく失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条本文に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末勇 裁判官 松村利教 江見弘武)

〈以下省略〉

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